兵庫県で精神病を持つ長男を自宅の檻で25年監禁していたという事件があり、その子供の73歳の父親が逮捕されました。
ちょっと前にも似たような事件が大阪でありました。
発覚していないだけで、このように監禁されている患者さんは他にもいるように思います。
しかし、精神病の患者の家族の苦労もまた、きれいごとで語れないものがあります。
今回はこの事件を考察してみますので、よろしければお付き合い下さいね。
兵庫県三田市・長男監禁事件の概要
今回の事件は、監禁していた親からの三田市への相談によって発覚しました。
つまり事件当時者からということで、近所の人は誰もこの長男の存在には気づいていなかったようです。
精神病の子供と言ってももう25年の長期に渡る話で、本人は42歳の大人の男性です。
監禁の場所は兵庫県三田市の2階建ての自宅。
玄関と反対の裏側に3畳程度のプレハブを建て、その中に、高さ1m、横1.8m、縦0.9m程度の木製の檻を置き、子供をその中に入れて南京錠で施錠し監禁していたとのこと。
プレハブには自宅から屋根付きのバルコニーを通って行き来ができるようになっていたようです。
また、カーテンなどで外から見えないように目隠しもしてあったそうです。
逮捕された父親(73歳)によると、長男が暴れるので、25年前から閉じ込めるようにしていたとのこと。
発覚したきっかけは2018年1月16日、入院中の妻(監禁された本人の母親)が退院して自宅療養になるので相談したいと三田市に父親が連絡したことからです。
三田市の職員が1月18日にこの家を訪問し、その際に長男が暴れていた経過の説明と檻に入っている姿を見せられ、警察に通報し逮捕に至りました。
ちなみに、妻は1月下旬に亡くなり、監禁されていた長男は特に健康に問題もなく、父親の同意のもとに福祉施設に保護されました。
保護時、長男は下半身裸で腰も曲がっており、檻の中はペットシーツが敷かれていたそうです。
三田市に転居してきた時には精神病を発症していた?
この家族は、1990年代に現在の住所に転居して来ました。
この長男が義務教育を終えてからの転居とのことですので、16歳くらいでしょうか。
監禁を始めた時に17歳だったということですので、もうすでに発病していたのではないかと考えられます。
転居後より、長男が暴れて叫んだりする為に、近所から苦情も来ていたそうです。
かなり激しい家庭内暴力があったようで、父親が仕事に出かけると、それに対処する者がいない為に、プレハブを建ててそこを本人の部屋にしたようです。
しかし、プレハブでもやはり壁を叩くなどして暴れる為、手が届かないように檻を作りその中に入れることになったという経過のようです。
精神障害手帳を持っている
この長男は精神障害手帳を取得しているとのこと。
それを申請できたということは、医療機関にかかっていた時期があったのでしょうね。
この手帳は誰でも取得できるものではなく、申請には医師の診断書が必要で、等級決定の審査もあります。
定期的に通院ができたのかはわかりませんが、手帳取得の診断書を出すにあたり、医師もそう簡単に病名を付けることはできません。
精神病は、病気の経過を見ていくうちに病名が変わることもあります。
長男は手帳を取得はしたものの、特に福祉サービスを受けてはいませんでした。
監禁生活ですのでサービスを受ける機会はなかったのでしょうけどね。
精神病の本人は病識に欠ける
思春期の頃に発病する精神病では統合失調症の可能性が高いと思いますが、なぜ暴れていたのかその理由も、他にどんな症状があったのかもわかりませんので、何とも言えません。
いじめなどをきっかけに不登校になり家で暴れるようになるという子供は多く、それの全てが精神病ではありませんしね。
ただ、ある時期やあるきっかけでそこから抜け出して健康的な生活ができるようになるパターンもたくさんある一方で、それが病気の初期症状であるということも多いです。
その場合、幻聴や妄想の恐怖に苦しい思いをしているのかもしれないけれど病識がないので、本人にとっては「症状」ではなく、「現実に起こっていること」なのです。
親が子供のその状態を精神病として受け入れるのは難しいかもしれません。
親は監禁しながらも世話を怠ってなかった・・・家族の25年間とは
事件のあった自宅に転居して来た時、2階に子供部屋を作っていたとのこと。
長男の部屋は、窓の内側に窓ガラスを割らない為の柵を取り付けていたということですから、やはり、転居して来る前からかなり窓ガラスも割ったのでしょうね。
食器棚なども壊しているそうですので、暴れ出したら手が付けられない状態だったのでしょう。
監禁の理由は、家庭内暴力の激しさに耐えられなかったのと、近所からの苦情、そして、もし外に出て人を傷つけるようなことをしてはいけないということを危惧したようです。
このような子供を持つ親の心にはそれが常にあると思います。
他人に迷惑をかけるのではないか、何か事件を起こすのではないか、そして親は老いていくもの、もし自分達がいなくなったらどうなるのか・・・そんなことをいつも心配して。
精神病の患者家族には共通の悩みではないかと思います。
私は、プレハブを作って子供を檻に監禁した父親が正しいと言っているわけではないです。
でも、この父親が「仕方がなかった」と言っているのが全てを表している気がします。
父親は施設も考えたようですが、母親はそれを受け入れられなかったようです。
そして何回も行政に相談に行っていることがわかっていますし、実際に訪問も受けたようです。
しかし、具体的に指導や施設などの提案という対応はされなかったとのこと。
結局、こうやって患者を抱えた家族は孤立してしまいがちになります。
誰も手を差し伸べてくれないし、助けてくれない。
この家族も近隣から孤立していたようですが、よその土地からの新参者であり、苦情などがあった時点でそうなるのは目に見えていると思います。
親は食事や入浴もきちんとさせていた
父親は、この25年間、長男の食事は自分達と一緒で、2日に一度は入浴もさせていたそうです。
監禁の当初は家族旅行などにも連れ出していたようです。
トイレは、簡易トイレを設置しても使うことができず、母親が汚物で汚れた床を毎回掃除しているのが大変に思えたのが、ペットシーツを敷いた理由。
プレハブにはエアコンも付けましたが3回も壊れて買い直し、現在は扇風機やストーブで室温に気を配っていたとのこと。
親にしてみれば、決してネグレクトではなく、これが精いっぱいだったのかもしれません。
この家にはもう一人子供がいて、女性のようですが、妹さんかお姉さんかはわかりません。
その娘さんも福祉の対応が必要と書いてありました。
何のご病気かはわかりませんが、このような環境の家にいて、仮に心因反応などで体調が悪くなってもおかしくないとは思います。
大阪府寝屋川市の監禁事件との違いは?
大阪府寝屋川市でも同じように、プレハブに女性がその両親から15年監禁されていた事件が発覚し、その女性は発見時、亡くなっていました。
やはり、その女性も思春期より暴れるようになり、精神病を発病していたようです。
しかしその女性の場合、ネグレクトというべき環境だったことが問題になりました。
入浴もほとんどせず、服も身に着けず、33歳で体重は19kgしかなく、凍死と見られています。
今回の三田市の事件の父親は、その事件のことと比較し、全くそれとは違うと言っているそうです。
親の力で精神科に入院させることは容易ではない
はっきり言って、精神病を発病した患者を家族が医療機関に繋げることは、容易なことではないです。
患者さんの病気の種類や病状によっては、素直に病院に連れて来られることももちろんあるけど、統合失調症などの急性期などは難しいです。
家族としては一番対応に困るにも関わらず、本人が治療を拒否する状態とも言えるのです。
精神科の入院は拘束の意味もあるので、入院形態にはいくつか種類があるのが他の科にない特徴です。
精神科の場合は、本人が拒否しても入院治療が必要な病状というのがあるからです。
- 任意入院:本人が同意する、または自らが希望して入院する方法で、この形態の入院であれば、本人が退院を希望した時は退院させなくてはいけません。
- 医療保護入院:本人が同意する状態になく、扶養義務者や保護者が同意して入院する方法です。
- 応急入院:入院の必要があり、保護者の同意が得られない緊急時に、指定医1人の診断で72時間、あるいは特定医師1人の診断で12時間限定して入院させることができます。(通常、その時間内に他の形態の入院に変更します。)
- 措置入院:精神障害の疑いがあり自傷他害の恐れがある場合、一般人(第23条)や警察(第24条)からの申請によって、都道府県知事の許可で入院させる方法で、指定医2名の診断の一致が必要になります。
- 緊急措置入院:措置入院よりも緊急性があります。自傷他害のおそれが著しい精神障害者、または疑いのある患者で、一般人や警察からの申請で都道府県知事の措置として指定医1名の診断で72時間入院させることができます。(通常、その時間内にもう一人の指定医の診断を得て措置入院に切り替えます。)
参考資料:http://www.mhlw.go.jp/za/0825/c05/pdf/21010905.pdf
家で暴れていて精神病と思われ危険な場合は、警察に介入してもらう方法がありますが、それがうまく入院に結びつくかどうかまではわかりません。
明らかに精神障害と診断されなければ帰される可能性もあるので、家族としてはその後に逆恨みされるなどの問題も出て来ます。
家族が苦労して病院まで連れて行きどうにか入院させたとしても、最近の精神科入院は早期退院で在宅の方向にあるので、病状がそれほど変わってないとしても、深刻ではないと判断されれば結局は帰ってきて通院の継続が必要です。
そして内服の継続や通院などのスケジュールは家族に全てかかって来ます。
その結果、親は、精神病の子供を抱え込まざるを得ない、孤立し、諦めてしまうということが起こりやすくなります。
座敷牢は昔の話ではなく、現在も似た話はあり、そうするしかなかった家族は他にもいるのではないかと思います。
まとめ
監禁されていた長男はトイレの認識もできてなかったようで、能力はかなり低下しているように感じます。
それでも、最初は深刻な精神病であると認めることが難しいかもしれません。
初期に適切な治療を受けて、薬の継続ができていたら、病気そのものは治らなくても人格や社会性は維持できていたかもしれないのに。
せめて導いてくれる人はいなかったのか、行政にもそれを求めたのに。
どうしたらいいかわからず、子供の責任を全て親が背負わなければと考えた結果がこのような形になって、その気持ちは当事者しかわからないでしょう。
精神病の子供も親も綺麗事ではないと思います。
年老いて、25年も抱え込んで面倒みていたこの父親は、間違っているかもしれませんが同情せずにいられないです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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