メディアではTOKIOの山口達也氏の件で、しきりとアルコール依存症のことが話題にのぼりました。
事件のことから少し話題が逸れて来た感じがありましたが、アルコール依存症は身近な病気であり、誰でもが罹患する可能性があるので知ることは無駄にはなりません。
アルコール依存症は本人が病識を持ちにくいですが、治療には本人の「治したい」という意志が必須です。
それと共に本人を取り囲む家族の支援も欠かせません。
アルコール依存症治療は精神科専門病棟でのみ可能
山口達也さんにはアルコール依存症に違いないと近しい人達は思っていた、でもその診断名は付いていない、会見でそのように言っていました。
なので、山口さんについての正確なことはわかりませんが。
肝臓が悪くて入退院していたという情報は出ていて、今回の事件も、退院した日にさっそく飲酒して記憶も定かでないような状態で起こしたようです。
入院していたのは内科の病棟と思いますので、診断名も、アルコール性肝障害という内科的なものが妥当だと思います。
それほど肝臓が悪くなっていても繰り返す飲酒にはアルコール依存症の疑いがたとえ強くとも、内科では身体的な治療がメインになります。
診断は精神科医によって行われる
身体的な治療がひとまず落ち着いたとして、その後のアルコール問題については精神科の領域です。
精神科医によって初めてアルコール依存症という診断が付けられ、専門的な治療に繋げられます。
内科的に(ほとんどは肝臓)体調を崩したことをきっかけにして、精神科に繋がれば第一歩ですが、そこがうまく繋がらないことも多く・・・。
内科の医師が、「この患者はアルコール問題がある」と感じていたとしても、どこに紹介すべきか?医師も実はあまり詳しくなくて、延々と身体的な治療だけを続けていくパターン。
家族も「飲酒するから肝臓が治らない」とはわかっているのだけど、それがアルコール依存症という、専門的な治療が必要な病気と認識していないことは多いです。
本人にいたっては病識を持ちにくい病気ですので、飲酒することに治療を要するとも考えていません。
あるいは、精神科に紹介というハードルが高い場合もあります。
精神科は偏見を持たれやすい診療科です。
これが、「あなたはお酒をやめる必要があるので外科に紹介します」なら本人も家族も抵抗ないでしょう。
でも、「精神科へ」というのは受け入れがたくないでしょうか。
結局は、家族や本人がこの問題で困って、治療できるところを探し始めるまでそのまま、ということも多々あるわけです。
アルコール依存症の患者は特殊な患者ではないのです。
普通に社会生活を送っている働き盛りで現役世代という人が山ほどいます。
そんな分別のある人でも、どんなに体を壊しても一日も飲酒を我慢できない、いつも浴びるほど飲んでその記憶が全くない、悪いとわかってもやめられない、そんな状態に陥っているのがアルコール依存症です。
アルコール依存症のチェック項目
自分自身の飲酒に関して、その飲酒習慣がどの程度危険があるのか、またはないのかについて、簡単にチェックすることのできるスクリーニングシートがあります。
質問に答えてその合計点数でおおまかに判断できるようになっています。
WHOの形式と、専門医療機関によって日本人向けにアレンジされたものがあり、精神科のHPなどでもよく掲載されています。
こちらのリンクも参考にされてみて下さい。
アサヒグループhttps://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/self_check/audit.html
治療には本人の「治したい」意志が必要
アルコール依存症には否認の心理が働くと言われます。
患者本人は、自分がお酒好きだということは認めても、アルコール依存症であるということは否定したがります。
そうは言うけれど、なかなか自分がアルコール依存症という病気であると認めるのは、難しいかもしれないなとも思ったりします。
他の病気であっても同じですよね。
お酒は成人なら誰もが飲んで楽しむことのできる嗜好品であり、違法ではないのですから。
やや飲み過ぎているかもしれないだけで「あなたはアルコール依存症です」と病名を言われても・・・。
でも、本人が自覚する以上に、実は生活の中でアルコールによる問題が生じていることが多いです。
本人は、飲酒していたからだとか酔っていたから覚えてないだけだと捉えるかもしれませんが、飲酒がやめられないので生じる問題は深刻になっていきます。
自分のアルコール依存症を認めなければ、治療の段階へと進むことができません。
自分の意志ではお酒をコントロールできなくなっている病気がアルコール依存症です。
その上でアルコール依存症の治療は、それを治したい、治そうという本人の強い気持ちが不可欠です。
断酒は容易ではない
アルコール依存症の基本は断酒です。
しかし、それは容易なことではありません。
飲酒のコントロールができないからこその依存症ですので、そもそも「よし!やめよう」でやめられるようなら病気ではありません。
だから、断酒するのに意思が弱いとか強いとかいう問題ではないです。
長年の飲酒習慣によって脳がそのように変化してしまっているのです。
病気だから治療したい、治療しようという本人の自覚と決心は必要ですが、決心したからやめられるというものではないです。
アルコール依存症は、精神科の中でもそれを専門とする医師でなければ治療は難しいと思います。
精神科の病院は全て同じ対応ではありません。
アルコール依存症も急性期か療養かで分けられるだけで、他の疾患の患者と同じ病棟に入院させる病院もあれば、アルコール依存症、またはすべての依存症(薬物やギャンブル)という専門の病棟がありそこへ入院させる病院もあります。
専門の医師がいて専門病棟を持つような病院では、アルコール依存症患者だけの自助グループ「断酒会」などもあって、社会復帰プログラムが段階的に組まれていたりします。
孤立して飲酒の方向に行きやすい環境も、そのような総合的支援により治療を成功させようというものです。
新しい試み・断酒ではなく減酒
最近では、断酒ではなく飲酒量を減らすという、酒量のコントロールを目標とした治療が試みられるようになったようです。
そうすることによって、「断酒」はできないが、「減酒」ならできるかもしれないと考える、飲酒習慣を改善したい人と医療を早期に繋げる目的があるようです。
上手なアルコールとの付き合い方を医療がサポートすることで、結果的に重度のアルコール依存症に移行するのを食い止められるというのです。
しかし、これまでアルコール依存症の治療は断酒で、少しでも飲酒すれば、治療がせっかくうまくいっていても歯止めが効かなくなって元通り・・・というのがよく見られるパターンでした。
入院中、退院を間近にして自宅に外泊訓練に帰って飲酒し、泥酔で帰院するというような「どうしてなんだ・・・」というような患者さんもいるのです。
そしてまた外出や外泊禁止からやり直し。
一度ならまだしも何回も外での飲酒を繰り返したり酒持参で病院に戻ってきたりして、ルールが守れない、治療の意志なしとして強制退院になる人も。
せっかく退院したのに、すぐに戻ってくる常連の患者さんも多いのです。
今後、この「減酒」がどのような効果をあげるかはまだ未知数ですが、患者さんにはいいお知らせかもしれません。
アルコール依存症は本人だけでなく家族を含めた支援が必要
アルコール依存症の患者家族は、その問題行動に振り回されて、本人と家族の関係が壊れていることも少なくありません。
経済的なこと、周囲に迷惑をかけたことの後始末、嘘をつく、仕事に行かなくなる、暴力をふるうなど、アルコール依存から派生した様々な問題を抱え、家族も患者に愛想をつかしたくなります。
その一方で、家族が必死で患者をかばい、問題を片付けて回り、お酒さえ飲まなければいい人なのにと不憫に思い、過剰に世話を焼き過干渉しすぎることもあります
アルコール依存症患者とその配偶者の関係が依存症を助長する共依存に陥っている可能性もあります。
アルコール依存症の治療には、それを取り巻く家族支援も不可欠です。
まとめ
アルコール依存症の病棟は、何故ここに?と思うようなしっかりした患者さんがたくさんいます。
それはお酒が抜けて規則正しい入院生活の中で体調も良くなり、その人らしさを取り戻しているのです。
アルコール依存症は、そんなどこにでもいそうな普通の人がなってしまう病気です。
恐いのは、過剰飲酒を続けて年数が経つと、脳はやがて委縮など変化を見せ、飲酒をやめてももう元に戻らない、その末路は若くしても認知症のように後遺症が残ってしまうことです。
アルコール依存症は、お酒をやめる努力が足りないという話ではなく、すでに飲酒量をコントロールできなくなった病気であり、専門的な治療が必要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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